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大阪高等裁判所 昭和45年(ネ)1206号 判決

控訴人 和歌山相互銀行

理由

控訴人が銀行取引を営業とする株式会社であること、預金者の点を除き被控訴人ら主張の無記名定期預金契約がなされたことは当事者間に争いがない。

そこで以下右無記名預金契約の預金者について判断する。

(被控訴人木元文治について)

《証拠》を総合すれば、被控訴人木元文治は、訴外古沢英二から日歩三銭の裏金利を支払うから控訴人梅田支店に無記名定期預金をしないかと勧誘され、昭和四一年五月二〇日、同支店に現金一〇〇万円を持参して、原判決別紙定期預金明細表一記載の定期預金をしたこと、同被控訴人は、預金後から現在まで右定期預金証書および届出印章を所持していることが認められる。《証拠》は、右認定を左右するに足らず、ほかに右認定を覆えすに足る証拠はない。

(被控訴人小林一雄について)

《証拠》を総合すれば、被控訴人小林一雄の妻小林孝子は、被控訴人木元文治に裏金利として日歩三銭がもらえるから控訴人梅田支店に無記名定期預金をしないかと勧誘され、これを夫である被控訴人小林一雄に伝え、同被控訴人の指示に従い、昭和四一年五月一九日、同支店に現金三〇〇万円を持参して、原判決別紙定期預金明細表二記載の定期預金をしたこと、同被控訴人は、預金後から現在まで右定期預金証書および届出印章を所持していることが認められる。《証拠》は右認定を左右するに足らずほかに右認定を覆えすに足る証拠はない。

(被控訴人外海波吉について)

《証拠》を総合すると、被控訴人外海波吉は、訴外古沢英二から日歩三銭四厘の裏金利を支払うから控訴人梅田支店に無記名定期預金をしないかと勧誘され、使用人今井正隆をして、昭和四一年五月一九日と同年六月二日の二回に、同支店に合計金一、〇〇〇万円の現金を持参させて、原判決別紙定期預金明細表三記載の定期預金をさせたこと、同被控訴人は、右預金後から現在まで、右定期預金証書および届出印章を所持していることが認められる。《証拠》は右認定を左右するに足らず、ほかに右認定を覆えすに足る証拠はない。

(被控訴人西村吉郎について)

《証拠》を総合すると、同被控訴人は、被控訴人外海波吉から裏金利として日歩二銭九厘を支払うから、控訴人梅田支店に無記名定期預金をしないかと勧誘され、同被控訴人の使用人である訴外今井正隆をして、昭和四一年五月一九日、同月二〇日の二回にわたり、同支店に合計金五〇〇万円を持参させて、原判決別紙定期預金明細表四記載の定期預金をさせたこと、被控訴人西村吉郎は、右預金後から現在まで、右定期預金証書および届出印章を所持していることが認められる。《証拠》は、右認定を左右するに足らず、ほかに右認定を覆えすに足る証拠はない。

被控訴人らは、本件各預金の預金債権者は被控訴人らであると主張するのに対して、控訴人はこれを争い、本件各預金は資金の出捐者が訴外梅本昌男で、同訴外人が預金者であると主張抗争するが、《証拠》によれば、同訴外人は自己の支配する訴外会社名で金を借りる状態にあつたのであり、本件各定期預金の資金を出捐する状態になかつたことが認められ、ほかに本件各定期預金が同訴外人の資金の出捐によつてなされたことを認めるに足る証拠はない。

また控訴人は、被控訴人木元文治、同小林一雄、同外海波吉については、本件各定期預金の資金の出所が明確でない旨主張する。しかし、無記名定期預金の預金者の判定については、誰が資金を提供したかは問題とならない。前記各認定事実関係のもとでは、本件各無記名定期預金の預金者は、被控訴人ら主張のとおり被控訴人らであると認められる。

無記名定期預金は、預金証書面においては債権者の氏名を記載せず、無記名ではあるが、その性質は無記名債権ではなく、一種の指名債権であり、これを前提としてその預金者が何人であるかを考察するとき、結果的には預金証書や届出印鑑の所持は、それ自体権利を表章するものではなく、一応これと離れて権利の帰属関係を判定すべきこととなる(もつとも預金約款で届出印鑑の使用と預金証書の呈示により、預金の払戻を受くべき旨定め、これら特約による免責、または民法四八〇条、四七八条等の免責により債務者銀行が保護されることはここでは別論とする)。そしてこのことは他の記名式定期預金の場合と変りない。無記名定期預金においては、特段の事情のない限り、その預金の資金の出捐者をもつて預金者と認めるのを相当とする。そしてここにいわゆる出捐者とは、当該預金契約をすべくその資金を提供した者であり、甲が自ら銀行に行き、自己の資金を提供して無記名定期預金をした場合の甲、甲が乙に金員を交付して、甲のために無記名定期預金の預入れを依頼し、よつて乙がその金員を無記名定期預金として預入れた場合の甲、右の設例の場合、乙が委託された金員を横領し、乙のために預金した場合には乙を指すのであり、最終的に銀行に交付された金員が誰の出捐によるものかとは別である。換言すれば、甲所有の金員が、乙、丙、丁等複数の人を通じて無記名預金がされた場合、預金者は、甲からの出捐の事実に関係なく、直接預金行為をした者に一番近い者で、自己のために預金をする意思を有した者である。

従つて、本件において、被控訴人らの本件預金の金員が、仮に第三者所有の金員であつても前記認定事実によれば、被控訴人らをそれぞれ本件預金の預金者と認めることには何らの影響のないことである。

控訴人の本件預金の資金の出所が明確でないとの主張は、主張自体理由がない。

以上によれば、被控訴人らは、それぞれその主張にかかる無記名定期預金の預金者であると認められる。

そこで、以下控訴人の抗弁について判断する。

控訴人は、本件無記名定期預金は、いわゆる導入預金であり、強行法規違反で無効である旨主張するが、いわゆる導入預金は強行法規違反、又はその脱法行為であつても、定期預金契約の効力自体には何らの影響もないものと解すべきであるから、控訴人の右主張は主張自体理由がない。

つぎに、控訴人の不法行為の主張について判断するに、控訴人は、訴外梅本の行為については主張するが、被控訴人らの不法行為については何らの主張をしていないのであり、第三者が被控訴人らと関係なく、本件定期預金の存在を利用して、控訴人に損害を与えたとしても、被控訴人らがその損害について責任を負ういわれのないことは明らかであるから、控訴人の右主張は、主張自体理由がない(なお被控訴人らが訴外梅本らと共謀して、控訴人を恐喝したことを認めるに足る証拠はない)。

《省略》

以上によれば、原判決は相当であるから本件控訴を棄却する

(裁判長裁判官 増田幸次郎 裁判官 寺沢栄 道下徹)

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